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御伽朗読“郁姫”

  • 御伽朗読“郁姫”
お題投稿者:
繋村 真昼繋村 真昼
投稿日時:
2008-06-06 19:06
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お伽話をテーマとしたお題です。
タイトルが“郁姫”となっていますが、オリジナル当て字で、“かぐやひめ”のことです。“郁”は“かぐや”になります。

“昔々、若い夫婦が、美しい娘を持っておりました。住人には遠い親戚の娘だと通しておりましたが、実は其の娘は拾い子だったのです。
ある日男が竹林に行き、竹を切っていると、光る竹を見つけたのでした。
男は“かぐやひめ”という話を聞かされたことがありましたから、もしや美しい姫が、と、其の竹に近寄っていったのです。
しかし、娘は、竹の中には居ませんでした。娘は死んだように竹の根元で眠っていました。
男は、山賊に襲われたのかもしれないと思い、娘を背負って家へ帰ったのでした。
それから娘は夫婦の下で暮らしています。
娘は名前を“郁”と名乗ったので、夫婦は“郁姫”と呼びました。

娘は其れはもう美しかったので、何かと求婚されたものでした。夫婦は困って、逢いたい人は居ないかと郁姫に訊ねました。
そうすれば、求婚をされる事はなくなります。しかし、郁姫は笑って言うのです。
「夫は要りません事よ。私、其の内ちゃんと家に帰りますから」

そんな郁姫に、時の帝が言い寄りました。
帝は公家の者ですが、気立ての良い男で、そう仇名をつけられたのでした。帝にだけ、郁姫は笑いかけました。
「憶えておいでですか?」
と。帝は首を傾げます。
郁姫は、それについてはもう何も言いませんでした。
帝は何度も郁姫に会いに参りましたし、郁姫も帝を愛している様子でした。

しかし、ある日の事でした。真夜中に郁姫が家を出て行ってしまったのです。

竹林のずっと奥、月を見上げながら、郁姫は言いました。
「思い出されましたでしょう?私のこと」
帝は其の隣に立って言いました。
「ええ、憶えています。あの時月にお帰りなさった貴女の事、一生忘れはしませんでした」
帝が郁姫の手をとりました。郁姫は、強く力を込めて帝の手を握ります。
「私もです。羽衣を脱いでは、あなたのことばかり考えていました」
郁姫のしっとりした黒い瞳が、幸福そうに細められました。
「さぁ、行きましょう」
「今度は僕も共に参りますからね」

夫婦が月の映った水面を見つけた頃には二人はもう居りませんでした。
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